AIネイティブな人材紹介CRM「Spott」から考える、人材紹介システムのこれから
inst石野です。
先日、Xで見つけたAIネイティブな人材紹介CRM「Spott」について書いてみたいと思います。
人材紹介の仕事で散らばりがちなATS、CRM、候補者への連絡を一つに。SpottはAIエージェントも組み込んだ採用管理基盤を提供し、Balderton主導のシリーズAで2,100万ドルを調達しました。https://t.co/XchWvltAI6
— kigoyama@BRIDGE (@kigoyama) September 23, 2026
人材紹介会社向けのシステムというと、日本ではPORTERSやSalesforce、人材紹介特化型のCRM/ATSなどが定番で、それぞれのATSがAI機能を追加したり、AI機能を持つサービスとの連携をしている、という状態かなと思います。
今回取り上げた、ベルギー発の「Spott」は最初からAIが使うことを前提に人材紹介システムそのものを作り直すスタートアップです。
思想としてはPeopleXが提供しているPeopleX AI Copilot for 人材紹介がコンセプト的には近いのかなと個人的には思っています。

Spottとは
Spottは2024年創業のスタートアップで、2026年3月にBase10 Partnersをリード投資家として320万ドルを調達。Y Combinatorなども出資しています。現在は世界400社以上の人材紹介会社で利用されているとしています。

彼らが掲げているのが、
「AI-native ATS / CRM」
という考え方です。
では、従来の人材紹介システムと何が違うのでしょうか。
創業者たちが感じていた「人材紹介会社はツールを使いすぎている」という問題
Spottの創業者3人は、それぞれMcKinsey、BCG、Bainでコンサルタントとして働いていました。
彼らは人材紹介会社や人材派遣会社のプロジェクトに関わる中で、同じような光景を何度も目にしたそうです。
人材紹介会社で働く人が、
- ATS / CRM
- 求人媒体
- メール
- カレンダー
- 電話
- マッチングツール
など、複数のツールを行き来しながら仕事をしている。
※これ、めっちゃあるあるですよね。
そして電話をしたらATSに履歴を入力し、面談をしたらメモを書き、別のツールから情報をコピーしてくる。
Spottによれば、RA/CAが候補者を紹介するためではなく、「システムに活動を記録すること」に大量の時間を使っている状況があったと。
これは日本の人材紹介会社でも、かなりイメージしやすい話だと思います。
最初からATSを作ろうとしていたわけではない
面白いのは、Spottも最初から「新しいATSを作ろう」と考えていたわけではないことです。
最初に作っていたのは、候補者との面談録音と履歴書・職務経歴書を読み込み、企業へ提出するための推薦文やレポートをAIで生成するツールでした。
つまり、生成AIを活用した業務効率化ツールです。
さらに彼らは、BullhornやSalesforceといった既存CRMの上にAIを載せるアプローチも試したそうですがそこで壁にぶつかります。
既存システムは基本的に、
「データを保存・管理するためのシステム」
として設計されています。
そのためAIチャットを追加することはできても、
「半年前の面談で、この人は将来的に海外勤務も検討できると言っていた」
「この候補者がこの求人に合いそうなのは、職種名ではなく、過去の経験と志向性が近いから」
といったコンテキストや行間まで含めてAIに扱わせるには、そもそものデータ構造から変える必要があると判断したそうです。
そこで既存ATSにAIを追加するのではなく、ATSそのものをゼロから作り直す、という判断になり、産まれたのが「Spott」とのこと。
Spottの強みは「AI機能」そのものではない
SpottにはAIマッチング、候補者検索、文章生成、面談サマリーなど、さまざまなAI機能があります。
ただ、個々の機能だけを見ると、それほど珍しいものではありません。
現在は多くのサービスで、
- 面談議事録生成
- 求人票生成
- スカウト文章生成
- AIマッチング
などが実現できます。
僕としてはSpottが強いところは
人材紹介業務に必要なツールやデータを、一つの業務基盤に集約していること
だと思います。
つまりは、見る場所・操作する場所が1個に統合されている、ということだと思います。
実際、SpottはATS / CRMだけでなく、Applicant Tracking、Multi-channel Outreach、AI Agentなどを一つのプラットフォームに統合しています。
例えば一つの求人を見ると、
Application(登録※個人情報獲得)
↓
Long List(見込みリスト)
↓
Short List(すぐ紹介できそうリスト)
↓
Outreach(アプローチリスト)
↓
Interview(紹介会社との面談)
↓
Presentation(求人企業への推薦)
↓
Offer(内定)
↓
Placed(成約)
という形で候補者を一つのPipeline上で管理できます。
Inboundで応募してきた候補者も、LinkedInなどから見つけてきた候補者も、最終的には同じ求人に対するCandidate Pipelineとして扱われます。
さらに同じ画面上にはAdvertising、Matching、Inbound、Tasksなどが並んでいます。
つまり、
集客 → 候補者発見 → スカウト → 面談 → 推薦 → 決定
を、できるだけ一つの場所で完結させようとしているわけです。
AIを活用するには、先に「データを集める」必要がある
ここは、人材紹介会社がAI活用を考える上でも重要だと思います。
最近は、
「AIで求人マッチングをしよう」
「AIで求職者をスコアリングしよう」
という話が増えています。
しかし、その前に一つ問題があります。
AIは、持っていない情報を理解することはできません。
例えば優秀なキャリアアドバイザーは、求職者について、
- なぜ転職したいのか
- 何に不満を感じているのか
- 年収をどこまで重視しているのか
- 本当はどんな仕事をしたいのか
- 前回紹介した求人をなぜ断ったのか
- 家族の事情
- 転職時期
- 最近の温度感
などを頭の中でつなげながら求人を紹介しています。
つまり優秀なCAは、頭の中にかなり豊富な求職者のコンテキストデータを持っています。※ハイクラスのエージェントとかはまさに、ですよね。
一方、システムに入っているのは、
「希望年収600万円」
「転職時期3か月以内」
「営業経験5年」
といった項目だけ、というケースも少なくありません。
これではAIをどれだけ高性能にしても、表面的なマッチングになってしまいます。
求職者のコンテキストデータを増やす方法は、大きく2つ
では、求職者のコンテキストデータを増やすにはどうすれば?
大きく分けると方法は2つかなと思います。
一つは行動を見ること。
例えば、
- 求人を閲覧した
- レジュメを更新した
- メッセージを開封した
- 求人URLをクリックした
- 再び転職サイトを使い始めた
といった行動履歴のデータです。
この観点でいきますと、LinkedInの経歴データやeightの名刺データ、Openworkなどの口コミの閲覧ログなどは強いなと思います。人材紹介会社をM&Aするのも頷けます。
もう一つは、本人から情報をもらうこと。
- 面談
- 電話
- LINE
- チャット
などの求職者とのコミュニケーションのログです。
オンライン面談のデータはCRMに蓄積するのが容易ですが、電話やメール、LINEのやりとりに至るすべての会話データも1箇所に集約していく仕組みまで整えられている、という会社は殆どなさそうな気がします。
この2つを継続的に蓄積できれば、
「登録時点の求職者情報」
ではなく、
“今、この人がどういう状態なのか”
を理解できるようになります。
いわゆるすぐに転職したいわけではないが、とりあえず登録した、という人や一度面談して転職活動をしたけどSTOPしてしまった人などを効率的に資産化するということですね。無闇矢鱈に電話しまくったり、求人をバンバン送りつけたりするという発想とは真逆というか。
ただし、日本ではSpottモデルをそのまま持ってくるのは難しい
ここは少し冷静に見る必要があります。
海外ではLinkedInやJob Board、CV Databaseなど、候補者のデジタルデータを活用する文化がかなり発達しています。
名刺データや口コミデータが集められたとて、それはあくまで部分的で持っていて有利ではあるものの、ほとんどの求職者のデータはそれぞれの求人媒体やスカウトサービスが独自に保有しているものです。
そして、求人媒体の職歴書更新などの情報がタイムリーにAPIで受け取れるわけでもありませんし、電話やメール、個人LINEなど、コミュニケーションツールも多岐にわたるだけでなく、それらの全てから情報を抽出できるような仕組みにはなっていません。
「以前登録したAさんが、最近別の媒体でレジュメを更新した」
という情報がAPIで取れれば、話は別なんですが。。。
つまり日本では、求職者のコンテキストデータを集約すること自体が一つの大きな課題になります。
これは単純にAIを導入すれば解決する話ではありません。
人材紹介のAI化で本当に重要なのは何か
Spottは最終的に、人材紹介業務の70〜80%をAIで自動化することを目指しているとのことです。
対象として挙げているのは、
- Matching
- Outreach
- Scheduling
- Note Taking
- Reporting
など。
一方、
- 交渉
- 関係構築
- 「この人が本当にこの会社で活躍できるのか」という判断
など、人間ならではの仕事にリクルーターが時間を使える状態を目指していると。このあたりは個人的にもかなり現実的だと思います。
人材紹介会社のAI活用というと、
「AIキャリアアドバイザーを作る」
「AIが求人を紹介する」
という話になりがちですが、マッチングの精度を高めるためには、やはりコンテキストデータの蓄積・活用が重要です。
そう考えると
求職者・求人・面談・電話・メッセージ・行動履歴といった情報を、とにかく集められるだけ集めて、AIが理解できる形でつなげること。
が必要になってきます。
その状態になって初めて、AIは単なる“便利な機能”ではなく、人材紹介業務の一部を本当に担う存在になれると思うのですが、そのためには業務基盤やコミュニケーション基盤、求職者の行動履歴データの取得などなど、色々な制約やハードルがあります。
なんとなくですが、新興の人材紹介会社で伸びている会社でシステム投資をしている会社はこのあたりに気づいて自社でシステムをスクラッチ開発しているのではないかなと、個人的には推測してます。MyVisionさんのInVisionとか。
では、普通の紹介会社はどうすれば良いのか
システム開発担当もおらず、なかなかAI化が進められない、という人材紹介会社がほとんどではないかと思います。
紛いなりに11年、人材紹介会社をITソフトウェアで支援し、少しずつAI活用支援も行わせていただいている僕から、どんなところから始めていくとよいのかを少しご紹介してブログの締めくくりにしたいと思います。
1.面談とやり取りのログの徹底管理
求職者との面談を文字起こしして管理している、という会社は多いと思いますが、希望条件以外の応募/非応募、他社選考のデータ、求人紹介に関係なさそうな会話や通話のログもしっかりデータにしておくことが重要です。
可能であれば、メールのやり取り、面談後電話で話した通話データを録音したり、LINEでのやり取りなどもデータ化できるとより良いと思います。
音声通話の文字起こしに関してはMiitelやカイクラ、BIZTELなどのクラウドCTIを使えばすぐに可能ですが、携帯での通話に関してはPlaudなどのガジェットを利用する方法が今のところポピュラーそうです。
メールに関してはGmailを使っていれば、メールをAIに読み込ませてどんなやり取りをしているかが自動抽出可能。
LINEに関しては個人LINEだとNGですが、LINE Worksなどのツールを使えば、送受信トークの履歴はCSVでDLできるようですし、APIもあります。
もっと手軽に、ということであればMessaging APIも公開されているので、自社でLINEアカウント取得→MessagingAPIを使って社員⇔求職者のやり取りを一元管理するツール構築もできそうです。
※ツール開発は結構ハードル高いかもですが。。。
2.情報を集約するダッシュボード
使っているサービスが沢山あって、毎日いろんな管理画面を行き来している、というのは辛いものがあります。
AIがブラウザ操作できるようになっているので、ログイン状態をキープした自身のPCであればAIが操作してくれることも全然できるようになっているので、全部のサービスを横断管理できる、とまではいかなくても2-3つのサービスを横断管理できるようなダッシュボードを開発する、というのをAIでやるのは一つの手だと思います。
例えば求人媒体や広告LPなどの応募者データを集約して、呼込み業務の一切をそこから行えるようにする、というのは比較的現実的です。
※SMSや電話、LINEとの連携も必要になりますが、そのあたりはinstでも支援可能です。
3.サイト訪問やURLのクリックデータを取得し蓄積
求人媒体に登録されているレジュメの更新データを検知するのはなかなか難しいですが、例えばSMSやメルマガのURLクリックは簡単に検知することが出来ます。
INST MessengerでもSMSで配信したURLをクリックしたら
・クリックした人
・電話番号
をSlackに通知する仕組みなども用意してあります。(あんまり利用はされてないのですが、今回このブログを書いてたらいいかも、と思いましたw)
また、それをさらに進化させてCookieを渡して、自社サイトや自社求人ページへの訪問を検知してスコアリングしたり通知する仕組みを設けても面白そうです。
※Cookie/閲覧履歴を個人に紐づけるので、プライバシーポリシー・Cookie同意・利用目的の設計は必要になります。特に「閲覧履歴を営業アクションに利用する」点は明示しておいた方が安全かなと。
今までだと、実現できそうだけど、どうすれば実現ができるのかわからないものや、開発コストがどのくらいかかるのか?というようなツールやアプリケーションの実現性の確認や、開発ができるようになったのはAIの進化が大きいですね。
いきなりAIネイティブな人材紹介にシフトする、というのは難しそうですが、ポイントポイントでAIを活用できる箇所は考えてみると結構あるものです。
AI求人票作成、AIマッチング以外にいかに早く取り組んでいくか、というのも今後の成長戦略に於いては重要になりそうですね。
こういったご相談に関してもINSTで承れますので、お気軽にご連絡・お問合せください。
それでは。
Kosuke
