求職者体験と売上の狭間

求職者体験と売上の狭間

inst石野です。

45歳になって初のブログです(笑)

最近、いろんな人材紹介会社の経営者やマネージャー、求職者マーケティングの担当者の方々と毎日のようにお話をさせていただいているのですが、その中で、ちょっと「モヤモヤする違和感」を覚えることが多くなってきました。

今回は、その違和感の正体について、少し僕なりの考察をしてみます。

最初に言っておきますが、特定の人材紹介会社を批判したいわけではありません。僕自身、この業界に長く身を置いていますし、何が正解かなんて誰にも分からない領域だと思っています。

「人材紹介ビジネスの矛盾と葛藤」とでも言いましょうか。

丁寧な会社ほど売上を上げにくいという不都合な真実

その違和感の正体とは、一言で言えば「求職者体験(CX)をめちゃくちゃ大切にしている優しい会社よりも、ゴリゴリ電話を掛けたり、SMSを何度も送ったりする会社のほうが、結果として売上を上げている」という現実です。

instは人材ビジネスの会社がクライアントの8割なので、特に僕がそう感じる機会が多いのかもしれませんが、最近その傾向がより顕著になってきた気がします。

本来であれば、求職者のことを親身に考え、最高の体験を提供している会社の売上が比例して伸びるべきじゃないですか。三方よしの美しいビジネスとして、それが正義であるはずなんです。でも、現実はそんなに単純ではありません。

例えば、社内でこんな会話をしていませんでしょうか。

「この時間に電話したら、仕事の邪魔になって迷惑かもしれない」
「今日もう1回電話したら、しつこくて嫌われるんじゃないか」
「SMSを何通も送るのは失礼にあたるから、連絡が来るのを待とう」

こうやって、求職者の心理を考慮して、一歩引いたコミュニケーションをとっている「優しい会社」があります。「自分がやられたら嫌だし」と。

一方で、登録があった瞬間に秒速で電話を掛け、出なければ1日に何度も不在着信を残し、メールもSMSもガンガン送るような、悪く言えば「ちょっと強引な会社」もあるわけです。

で、蓋を開けてみると、後者の「ゴリゴリ追客する会社」のほうが、面談数も推薦数も、そして最終的な決定数も圧倒的に多かったりする。

確かに成功報酬というビジネスモデルなので、最終的な着地は「双方合意の上入社」になっているわけで、その時点で価値は十分に発揮されているわけですが、その手前段階で

「面談に来ない/求人を受けない/内定承諾をしない求職者は『お客ではない』」

という風潮が強くなってきた気がします。

人材紹介は、求職者が動かなければ1円にもならない

当たり前の話ですが、人材紹介は「最終的に求職者が入社しない限り売上にならない」完全成功報酬のビジネスです。どれだけ時間をかけて丁寧なキャリア相談に乗っても、どれだけその人の人生に寄り添った素晴らしい求人を探してきても、求職者が面談に来ず、面接に行かず、入社まで進まなければ、会社に計上される売上はゼロです。

つまり、人材紹介会社に求められるのは、単に「求職者に好かれること」ではなく、「求職者に行動してもらうこと」なんですよね。売上を上げるのは、好かれる会社ではなく、求職者を動かせる会社なんです。

求職者に次のステップに進んでもらうためには、いくつものハードルを越えて行動を起こさせなければなりません。

  • まず、電話に出てもらう/メールやメッセージに返信をしてもらう
  • 面談(カウンセリング)の時間を確保してもらう
  • 紹介した求人に応募してもらう
  • 企業の面接に行ってもらう
  • 内定が出たら、承諾の意思決定をしてもらう

一度だけ丁寧に連絡をして、返事がなければ「相手のペースがあるから」と静かに待つ会社。一昔前だどこれで良かったのかもしれないですが、今の時代この待ちの姿勢だと、求職者が自社経由で成約する確率はどうしても下がってしまいます。

  • 他の紹介会社がガンガン連絡して先を越される
  • ダイレクト採用をしている企業人事に先を越される
  • 待っている間に熱が冷めて転職活動を辞めてしまう

継続的に接点を作り、背中を押し続ける会社のほうが、歩留まりが良くなるのは確率論として当然と言えます。ここに「求職者の意思尊重」と「行動喚起」の強烈な矛盾と難しさがあるわけです。

連絡を控えることは、本当に「求職者のため」なのか?

ここで一つ、ひねくれ者の僕として問題提起をしたいのですが、そもそも「連絡を控えて待つこと」は、本当に求職者のためになっているのでしょうか。

求職者が電話に出ない、あるいはメールの返信をくれない理由を、多くの優しい会社は「今は連絡をしてほしくないからだ」とネガティブに捉えがちです。僕も自分がしつこく連絡されたら嫌な方だったので、同じような考えでした。

が、この考え方は10年前SMSを売り始めた時に変わりました。

電話に出ない人、メールに返信がない人にSMSを送ったら、面談設定率やコンタクト率が上がったのです。

これは、

  • 単に仕事中で、どうしても物理的に電話に出られなかった
  • 知らない番号から着信があったから、警戒して出なかった
  • SMSやメールの通知には気づいたけれど、後で返そうと思って見落としていた
  • 転職意欲はあるものの、日々の忙しさに忙殺されて後回しになっていた

こういう状態の求職者に対して、SMSという10年前はあまり多くの会社が使ってなかった気付きやすいアプローチ方法で「転職活動するなら面談に来てね」と伝えたことで機会損失が防げたことの証拠かなと思います。

もちろん、それでコンタクト率が100%になるわけではないので、「SMS送ってくるなよ!迷惑だな」と思われるケースも0ではないことも理解しました。

翌々考えてみると、誰かに少し強引にでも背中を押されないと、一歩を踏み出せない人ってたくさんいます。何度か継続的に連絡を受けたことがきっかけで、重い腰を上げて面談に進み、結果として素晴らしい企業に出会えて「あの時、熱心に連絡をくれて本当に良かった」と後から振り返る求職者だっているのかなあと。結果として良い転職ができれば、プロセスにおける多少のしつこさは、良い求職者体験に昇華されることだってあるかもしれない。
※多少都合の良い解釈ですがw

勘違いしないでほしい、鬼電を肯定したいわけではない

とはいえ、です。 ここまで読んで、「よし、明日から機会損失を防いで、良い転職サービスを提供するために、電話に出なかった求職者には1日10回ずつ鬼電しよう!」なんて思った方がいたら、それはちょっと待ってくださいw

以下のような行為は、求職者支援でも何でもなく、ただの人材紹介会社側の都合を押し付けた「身勝手な営業活動」です。

  • 同じ日に、用件も残さず何度も何度も電話を掛け続ける
  • 出なかったら発番の電話番号を変えて事故的に出てくれるのを期待する
  • 電話に出なかったら留守電もSMSも残さない
  • 「今は転職を考えていない」と明確に断られているのに連絡をしつこく続ける
  • 社内の情報共有ができておらず、複数の担当者が同じ求職者にバラバラに連絡する
  • 「19時以降に連絡してほしい」という希望時間を完全に無視して日中に掛ける

こうした力技の方法は、確かに短期的にはマッチングの分母を増やすので、売上に効くかもしれません。しかし、中長期的には間違いなく「巨大な負債」になります。

今の時代、ネットの口コミやSNSでの悪評は一瞬で広がります。「あの会社は鬼電がすごくて最悪だった」とGoogleのレビューに書かれたらまあまあなダメージですし、何より鬼電は自社の社員を疲弊させます。

ただ、人材紹介というビジネスは、生涯で同じ求職者と何十年も取引し続ける構造ではないため、この負債が「今月の売上」にすぐ表れにくい。だからこそ、多くの会社が短期的な数字の魔力に負けて、無秩序な追客に走ってしまうという、構造的な闇があるのも事実なんです。

丁寧な会社が負ける原因は、優しいことではなく「代替手段」がないこと

では具体的にどうすれば良いのか?

結論から言うと、「求職者と接点を持つためのプロセス設計」が大事です。

単純に連絡の回数を減らすのではなく、求職者がストレスを感じない形で、納得感を持って必要なアクションを起こせる「仕組み」を緻密に作ればいいわけです。

例えば、できることはたくさんあります。

  • 登録や応募があった直後の、最も転職意欲が高く、スマホを触っているタイミングに素早くファーストアプローチを仕掛ける
  • 電話に出なければ、すぐに「誰から」「何の用件で」掛かってきたのかが秒で分かるSMSを送る(もはや架電後のSMSはマナーに近い)
  • 一方的に電話を掛けまくるのではなく、求職者自身に「電話が欲しい希望時間」を選んでもらう予約システムを用意する
  • 電話、SMS、LINE、メールなど、求職者が最も返信しやすいコミュニケーションチャネルを複数用意する
  • 求職者の反応(SMSを開封したか、リンクをクリックしたか)に応じて、コミュニケーションを図る

これらを徹底すれば、求職者への配慮を忘れることなく、かつ行動を促すためのアプローチ量を担保することができます。

重要なのは、求職者体験を守るために、連絡を減らすのではない。無駄な連絡を減らし、必要な連絡を最適なタイミングで行う。 という視点です。

これから勝つのは「強く追うが、嫌われにくい会社」

人材紹介会社を取り巻く環境はかなりシビアで過酷になってきていると思います。

圧倒的な行動量で求職者の背中を押し続ける新興の紹介会社が成長しているのも事実ですが、人材ビジネスを長く経験してきている方にとって、いきなりそういった方向性に舵を切っていくのはかなり難しい決断になると思います。

ただ、今までのコミュニケーションプロセスや連絡手段だけでは、連絡がつかない時代になっているのも事実ですので、是非一回見直すタイミングを設けたほうが良いです。もし私が壁打ち相手として相談いただけるのでしたら、全然お気軽にDMでもFacebookのメッセでもいただければと。
※もちろん売り込みとかはしませんw

営業活動の強化と求職者体験の改善を両立する仕組み

売り込みをしないと言っておきながら最後にちょっとだけ宣伝させてくださいw

instが提供している「INST 3BD」という自動架電・SMS・電話予約の仕組みは、一見すると「応募後3秒で自動で電話を掛ける」という、営業圧をガチガチに強めるだけのツールに見えるかもしれませんが、本質はまったく逆なのです。

応募直後の、求職者が最も対応しやすいホットなタイミングでだけシステムが自動で1次対応を行い、もし電話に出られなければ、すぐに用件を明記したSMSを送って、求職者自身に都合の良い面談時間を予約してもらう。

繋がらない電話を減らすための電話ツール、とでも言いましょうか。

これにより、人間が「繋がらない電話」を1日に何度も掛け直す必要がなくなりますし、不在着信を残す確率も下がります。

求職者側も、意欲があるのであれば自分のタイミングが良い時に連絡をください、と表明することができます。結果として、営業活動の効率化(売上UP)と、求職者体験の改善は、仕組みの設計次第でいくらでも両立できると自信を持って言えます。

最後に、皆さんに投げかけたい問い

さて、色々と偉そうに語ってきましたが、皆さんの会社の追客オペレーションは、今どうなっていますでしょうか。

最後に、現場を預かる皆さんに、いくつかの問いを投げかけて終わりにしたいと思います。

  • 求職者を尊重することと、求職者を動かすことを、自社のオペレーションの中でどう両立させていますか?
  • 今の「連絡を控える」という対応は、本当に求職者に優しい配慮ですか?それとも、ただの放置になっていませんか?
  • 売上を追うことと、良い求職者体験を作ることは、本当に対立するものなのでしょうか?

綺麗な結論を出すのは難しいですし、現場の葛藤は尽きないと思いますが、自社の追客方法を考え直すきっかけになれば幸いです。

それでは。

Kosuke

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