人材ビジネスは「ビジネス」なのか「慈善事業」なのか

人材ビジネスの切り込み隊長と呼ばれたい、INST石野です。

 

御存知の通り、INSTは人材ビジネスのお客様と100数十社お取引をさせていただいております。また、僕も社会人1年目から約7年間、つまりは自身のキャリアの半分以上を人材ビジネスに従事してきた、いわば「業界人」であります。

そして今思うのが、人材ビジネスはつくづくよくできたビジネスモデルだということと、従事する人たちの意識の違いがとても顕著に現れる面白いビジネスだということです。この転職をあまり良しとしない、新卒一括採用からの終身雇用制がまだまだスタンダードな日本の中では特に。

 

あなたはビジネスをしていますか?慈善事業をしていますか?

今日は本音の話をしましょう。建前ではなく、本音。

あなたがやっている人材ビジネスは「ビジネス」ですか?「慈善事業」ですか?

「両方だよ」という人が多いかと思いますが、二択でどちらかを選ばないといけないとしたらいかがでしょう?

「困っている人を助けたい」「ありがとうと言われたい」というのは仕事をする上での重要なモチベーションになるとは思います。そういった顧客からの感謝の声があるからこそ、ビジネスとして成り立っているとも言えるのだと思いますが。

僕のブログを読んでくださっている方や、実際に僕と会ったことがある方は、僕はどちらを選ぶかをよくご存知だと思います。

僕は人材ビジネスを「ビジネス」として考えます。今は実際の人材ビジネスから遠ざかっていますが、仲介業という性質ですと、法人ファーストなのか個人ファーストなのかという二択の意思決定を迫られた時にどちらを優先するか?という議論の中では、僕は100%法人ファーストです。なぜなら企業の本質は売上を出し続けることであり、日本の人材ビジネスの構造上、殆どが法人からの報酬でビジネスが成り立っているからです。有料会員制の求人サイトもありますけどね。

そして、「個人ファースト」という人にとって人材ビジネスは「慈善事業」に近いのではないかと考えます。個人が望むキャリアに就かせてあげたい。ブラック企業の劣悪な環境から抜け出させてあげたい。ありがとうと言われたいと。それが私にとっての人材ビジネスだと。「慈善事業」という表現が適切かどうかはわかりません。賛否両論あるかもしれませんが、ビジネスと対比する表現としては、僕は正しいと考えています。特に個人ファーストの考え方を否定するわけではありませんのでご理解くださいね。

 

採用支援と転職支援の違いで生じる矛盾点

人材ビジネスの多くは仲介ビジネスです。採用をしたい法人からのオーダーと、転職をしたい個人の要望をマッチングして初めて収益が生まれます。求人広告も広義では同じですね。

ですので、法人にとっては「採用支援」ですし、個人にとっては「転職支援」です。このどちらの側面が欠けてもビジネスとして成り立たないので議論が難しくなるのですが。

法人にとって喜ばれる人材ビジネス会社とは
・その会社が求めている人材を
・よく把握し、的確に推薦してくれて
・その会社が支払える給与の中で出来る限り安く年収交渉をしてくれて
・入社までしっかりサポートしてくれる
そんな会社です。

片や、個人にとって喜ばれる人材ビジネス会社とは
・その人が行きたい会社や就きたい仕事を
・よく把握し、的確に紹介してくれて
・その会社が支払える給与の中で出来る限り高く年収交渉をしてくれて
・入社までしっかりサポートしてくれる
そんな会社です。

ここに矛盾が生じるのがおわかりでしょうか。

もちろん双方にとって良い人材ビジネス会社は、双方の要望に対して適切な折衷案を提案して、三方良しにすることですが、法人側からしか収益は得られませんので(僕的には)法人ファーストになるのが自然なのではと思います。

 

殆どの人材ビジネスは雇用の創出はしていない

どんどん本音でぶち込んでいきます。

多くの会社で雇用創出を大義名分に掲げていますが、殆どの人材ビジネスは雇用の創出はしていません

「働き方改革」が騒がれておりますが、例えば僕の知人の経営するキャスターさんは、リモートワークを普及させることで今までなかなか職につくことが難しかったり、十分な報酬を得るのが難しかった地方在住者や、ママさんなどに雇用機会を創出しています。フリーランス活用やシニア活用を推奨する会社も同じように雇用創出をしております。

ですが、中途の人材紹介業や派遣業になりますと、無職の人の転職サポートをしない限り、転職した方が在籍していた会社には雇用の「穴」が開きます。それなら、そこに新たに雇用の機会が生まれるじゃないか!となりそうですが、これは堂々巡りです。雇用の創出と同時に雇用の損失も産んでおりますので。

言葉は悪いですがいわば「求職者ロンダリング」とでも言いましょうか。転職させるたびに手数料が発生し、また空きポジションができて手数料の芽が出るという極めて良くできたビジネスモデルです。

ですので、やるのであればもっと徹底的に社会全体の転職者や転職回数を増やして、業務を効率化させて生産性を上げてサービス単価を下げる方向に持っていくというのはいかがでしょうか?

ビジネスマン人生の中で5回も転職すれば転職回数多いと言われてしまう日本ですが、海外ではよりよい仕事を探すために転職を短いスパンで繰り返すのは当たり前です。結局のところ、現状に満足して安心してしまうのが日本人の性質で、人材の流動性が低いために元気なスタートアップや可能性がある小さい企業に良い人材が回ってくる確率が低いんじゃないかと思うわけですよ。

 

転職はもっとカジュアルになっていくべき

僕がとてもお世話になった2社目の会社でヘッドハンターをしていた副社長がいました。その人に言われた言葉が今でもすごく胸に刺さっています。

転職って結局は縁と運とタイミングだから

上場企業のCFO案件や、とんでもない給与の外資系社長をズバズバ決めていた彼女が言っていたのですごく重みがあります。マッチング精度が本当にすごかったです。

いまさら遅いかもしれませんが、人材ビジネスの会社で働く方々を馬鹿にする気持ちは全くありませんし、日々マッチングの精度を高めるために努力をされていたり、新規求人を開拓するために一日何本もテレアポをしていたり、求職者獲得のマーケティングのために莫大な予算を頭を捻って使っていたりされているのは重々理解しております。

ただ、仲介業という性質上、案件が制約した時点での満足度は最高に近いものと思うのですが、法人・個人双方にとって大事なのはその入社後であって、それはいくらエージェントが注意を払ってマッチングしてもどうにもならない不幸なことが一定の確率で起きてしまうのです。

ですので、僕はリブセンスさんやアトラエさんを始めとした人材紹介よりも安い手数料で採用ができるサービスモデルには大賛成です。人の手が関わるプロセスを少なくすることで手数料を下げるという企業努力の賜物だと思いますので。

はるか昔にリクルートが決めた「紹介手数料は年収の35%」という常識を、いつの日か人材ビジネス各社の努力で打破し、転職がもっとカジュアルになっていくと、総じて一人あたりの転職回数は増えるのかも知れませんが、幸せな転職の数の総数が増えて、もっと働きやすい世の中になるのではと。まあ不幸せな転職も増えるのですが、幸せ:不幸せが50%:50%で発生するとして、幸せな人が転職しないとなると、最終的に限られたビジネスマン人生の中で幸せな仕事に巡り会える人の数が多くなりますよね。すげー理系っぽい考え方だし、あと30年くらいかかるかもしれないけどw

 

最後に

僕は今の会社のサービス提供を通じて、人材ビジネスを始めとしたBtoCビジネスの社会的価値がもっと向上すればいいなと思っています。結局は人材ビジネス結構好きなのかもしれません。BtoCビジネスってなんだかライフイベントと結びつくことが多くて、「一生に一回(もしくは何回もない)だから!失敗できない!」みたいな個人の考え方と、法人の考えのギャップが有ると思うのです。業界全体の生産性がITツールの活用でもっと上がって、そして個人側や社会の考え方も変わっていくと、より良い世の中になると思うんですけどいかがでしょうか。

車の買い替えにローンの残価設定ができてカジュアルに乗り換えられるみたいな感じで転職。まだまだ先になりそうですね。

なんだか最終的にまとまらない気がするのですが、今日はこの辺で。

Kosuke