競合に転職することや独立して人材ビジネスを立ち上げるリスクは?競業避止について考える
おはようございます。INST石野です。
先日、ポーターズ平田さんもコミュニティにPOSTされておりました、例の競業禁止規定を破った元社員を訴えて裁判所に却下された派遣会社のニュース。これは転職を生業とする人材ビジネスの方々にとっては2つの意味で重要だと思いますので、少し調べてみました。
2つの意味というのは
・自分が辞めて、人材ビジネスの会社を立ち上げようとする時
※経営者の立場だと、社員が辞めて独立しようとしている時
・転職者の方に競業他社への転職をすすめる時
ですね。
さて、さっきのニュースがどんなニュースなのかざっくりまとめると
・宇都宮の派遣会社の元社員が訴えられた
・訴えたのはその派遣会社を辞めて、競合になる同業を立ち上げたから
・5600万円の損害賠償を求めた派遣会社側の訴えを宇都宮地裁は退けた
という内容です。宇都宮の派遣会社ってどこだよ?と思って調べてみましたが、特定は出来ませんでした。宇都宮地裁の判例で検索ができるかと思ったんですが、まだ載ってないみたいですね。わかったら共有したいと思います。
少し調べてみましたが、よっぽどのことをしない限りは、ほとんど競業禁止の誓約書は気休めにしかならなそうな感じです。
この、「社長のための労働相談マニュアル」というサイトに競業禁止に関する判例や、解説がたくさん掲載されておりました。
まず、競業避止については2つの意味があります。
・在職中に、競業を行って会社の不利益になるようなことはしてはいけない
・退職後も、競業を行って在職していた会社の不利益になるようなことはしてはいけない
ということですね。前者についてはすごくよくわかります。ある企業に在職中にスパイ活動とかみたいなことをしてはダメだよ、ということです。ですが、多くは後者について「職業選択の自由」と天秤にかけられて議論になることが多いようです。今回の宇都宮の判例もそうですね。
退職後に競業を100%禁止するのは無理そう
判例を見てみると、興味深かったのが東京リーガルマインド事件。全然知らなかったのですが、あの有名な伊藤塾の伊藤真さんはその昔、LECの看板講師だったようで、その後独立して伊藤塾を立ち上げた時に競業避止義務違反を理由にLECに訴訟を起こされていますが、見事勝訴となっています。
看板講師が独立して、生徒盗られた!となったんでしょうね。
LECは裁判を起こす前に就業規則を変更して、裁判を有利になるように進めたかったようですが、それも見破られ、却下となってしまっています。
競業避止義務違反の裁判で企業側が損害賠償を得るためには基本的にですが
・企業の取締役や支配人などの経営に極めて近いところにいた人が
・「秘密だよ」と言われていた企業の情報を利用して
・不当に利益を得て、大きな損害を与えた
場合に限られるようです。なるほど。
その他の請求内容として
・退職金の返金(一部含む)
これは嘘ついて実家に帰る、とか言って競合に転職したのがバレると返さなくてはいけないケースもありそうです。
・業務差し止め(もうそもそも競業を辞めろみたいな)
これは殆どの場合で無理っぽいです。
などがありますが、ほとんどが「職業選択の自由」には勝てない模様。
ある程度企業側がリスクヘッジするには?
じゃあそもそも競業避止とか無理じゃないか、と言われるかもしれませんが、きちんと成約をしていれば可能になるケースもあります。
その際に重要なのは競業禁止の特約の要件の合理性です。
期間:競業を行ってはならない期間に合理性があるか?
これは金輪際絶対に、とかなっていると合理性にかけると判断され、却下される可能性が高そうです。1年間とか、長くても2年くらいが妥当っぽいです。
対象地域:競業を行ってはならない地域に合理性があるか?
商圏が限られるようなビジネスの場合には有効になる可能性があります。Webサービスとかではここの制限は難しいですね。
対象業種や業務の限定:どんな競業をやってはいけないのか?
前職の会社で行っていた事業全てを禁止とする、とかは無理なようです。
代償が支給されているか:競業をしないことで個人側にメリットが有るか?
これは結構抜けてそうですね。競業をやらない替わりになにか個人側にメリットがあるか?というのは大事らしいです。例えば研究員が研究手当を給与とは別にもらっていたのに、競合に転職するとかは、代償は支給されていた、とみなされるケースが多そうです。
この辺の制度をきっちり整えておかないと、せっかく競業禁止の誓約書を締結していても何の意味もなさない(訴えても勝てない)可能性が高いでしょう。営業秘密を使って、不当な利益を得た、と訴える会社も多いようですが、例えば人材紹介ビジネスにおいて、ある企業が求人をしているのはリクナビなどにも掲載されていますし、担当者の名前なども大した秘密とは思われないようです。
製造業の会社が競合に絶対負けないコア技術を持っていて、その設計書を転売するみたいなことが、営業秘密を使って不当な利益を得たというようなことになりそうです。人材会社にとってはノウハウも大事ですが、そのノウハウの多くは「営業秘密」として保護されない可能性が高そうですね。
これを辞める人側の立場から見ると「相当なことをしないかぎり訴えられて負ける可能性はない」ということでしょう。
良くも悪くも「人」が資産の人材ビジネス。競業避止の制度整備よりも従業員が辞めないというポジティブな方向に向いていったほうが良さそうです。
今回の宇都宮の派遣会社も含めですが、競業避止義務違反での訴訟は現存する社員に「出るとこ出るぞ」という見せしめの意味合いが強いような気がします。
経営者だったら社員が独立するときに「がんばれよ、これからはライバルとしてお互い切磋琢磨していこうぜ」くらいのスタンスのほうがカッコイイですね!
それでは。
Kosuke