SaaSバブル弾けるんじゃないか説に関して考察してみる

inst石野です。

 

某NewsPicksの記事で目にしたのだが、国内SaaSの株価下落が止まらない(らしい)。

見方としては今まで「とにかくSaaS」でバブっていたマーケットが適正値に近づきつつあるような感じと捉えれば違和感はないものの、一応はSaaSの会社を7年経営しているIT経営者として自分なりの見解をまとめておこうと思う。

※主にBtoB SaaSの話になります
※すべてのSaaS企業に当てはまるわけではないと思います
※わかりやすくするためにある程度端折って書いてます

 

売上が安定しやすいためSaaSメインでいきたい会社は多い

古くはASPと呼ばれていた、いわゆる「インターネットブラウザを使って利用するパッケージソフトウェア」はいつの間にかSaaSと呼ばれるようになった。

それまでソフトウェアを有料販売してインストールしてもらって使う形式で提供していた会社も「クラウド型」などと銘打ってサービス提供することで、売り切り型のモデルから月額モデルにシフトすることができ、それにより利用企業側の導入ハードルも下がったりするわけで、売上が安定しやすく「SaaSです」「SaaSです」というベンチャー企業がすごく増えた

売上が安定しやすいし、成長曲線が見えればVCマネーも集まりやすいだろう。日本のネットビジネスはSNS→ソシャゲ(→キュレーションメディア※おっといけない)みたいな流れで来ていて、結局ゲームなんて博打みたいなもの&コンテンツ力がものを言ったりするわけで、手堅く見えるSaaSにお金と人が集まるのは自然な流れなのではと。

まあここまでは健全といえば健全。でもSaaSにだって難しいことはたくさんある。

 

業界特化の「バーチカル&基幹業務系」は結局SIとバッティングする

SaaSを成長させるためには「なんでもできます!」というのではなく、「この業務が便利にできます、しかもお安く」みたいな謳い文句が必要になる。

なので大体が「特定業界の基幹業務=バーチカルSaaS」か「バックオフィス系」に絞られるように思う。この他には「仕事がちょっと便利になる系」があるが、それはあんまり大成しないと言うかブレイクしづらいように思う。
※ちなみにINSTが提供しているSMS配信SaaSはまさに「仕事がちょっと便利になる系」だが、メッチャブレイクする感が無い気がする。とはいえそこそこ良いサービスが提供できているとは思っている(ので問合せ待ってるぜ!)。

で、業界特化のバーチカルSaaSはプロダクトが良ければ最初はガンガン売れていく。どの業界にもバカ高い開発費をSIerに払って発注したクソみたいなUIで使いづらい業務システムを使っている会社はあって、そこにネットブラウザとインターネット接続があれば利用できて、アップデートなんかも自動。UIも使いやすくて安いSaaSがあります!なんて話が舞い込めば改善意識が高い人達が食いつかないはずはない。

だが、結局の所、「改善意識が高い人」なんてほんの一握りで、「できれば自分たちの業務プロセスやルールをSaaSに合わせて変えたくないし、業務効率上がっても給料上がんないし」みたいな人たちが多いのが日本社会の構造なので、超ブレイクするーするために必要な大手向けの「エンタープライズセールス」はSIerとバッティングして負けてしまうことが多いように思う。

エンタープライズセールスの現場では、担当者が「ホントは御社のSaaSを導入したほうが絶対良いのだけどもね。。。」みたいにぼやくシチュエーションが目に浮かぶ。

 

「バックオフィス系」も結局ベンチャー界隈限定の盛り上がり

かたや、バックオフィス系。こちらのほうが高い売上や業界シェアを獲得する可能性は高いように思う。人材紹介の基幹業務システムは人材紹介会社にしか売れないけど、給与計算をしない会社は(多分)ないはずなので、単純に売れるターゲットが広い。

が、結局の所、超大手になると、どうしても前述したような「改善意識が高い人」の含有率が低下してしまい、「やっぱExcelで」とか「結局手続き上、紙が必要なので今までのフローがいい」みたいになってしまうことが多そう。

(もちろん大手の会社にも導入されているバックオフィス系のSaaSもあるんだろうけど)バックオフィス系SaaSの盛り上がりはある程度年齢層が若く、業務プロセス変更やシステム化への抵抗感が少ないベンチャー界隈限定での盛り上がりがメインのように感じる。

結局はバーチカルSaaSでもバックオフィスでも攻めることができる業界が狭いのだ。そして国内マーケットは狭いし成長していない。そして一見マーケット広く見えたとしても、ベンチャー界隈を抜け出して、大企業・普通の中小企業に矛先を向けると業務改革意識が低いぶら下がりサラリーマンがめちゃくちゃ多いので難易度がめちゃくちゃ上がる。

スーパーマリオをプレイしていたつもりだったのに「え?いきなり超魔界村になった?」みたいな感じ、という例えをおっさん連中には理解して欲しい。

 

 

SaaSは意外とアップセルしづらい

「既存プロダクトに機能追加してアップセルすればいいじゃないか!」

むちゃくちゃ仰るとおりです。が、これは僕の会社だけかもしれないので聞き流しても良いのだけれども、SaaSのアップセルは思っているより難しい

SaaSたるものどんどん使いやすくなって機能もじゃんじゃん増やしていくべき!と思っているので、サグラダ・ファミリアよろしくずっと機能追加を続けて永遠に完成しないのがSaaSだと思っている。無料で使える機能追加も、有料オプション機能追加も何度も何度も行ってきたし、利用顧客累計500社なのでそれなりに客の数も多い。

実体験でお話する。当社の場合はSMS送信の管理画面から簡単に作って送れる「返信フォーム機能」に該当する。日程調整やアンケートとSMSは相性がとても良いので、自社のフォーム機能がないときは「Googleフォームとかでやるといいですよ」と営業をしていた。が、セキュリティや社内規定の問題で使えない会社や、ワンストップ管理したいというニーズがあったので(たしか)導入企業100社くらいのときに15円/通のSMS送信にプラス月額1万円頂戴するかたちで「返信フォーム機能」を提供開始した。

↑こんな機能です※動画ちょっと古いけど

 

この返信フォームは今でも一番人気の有料オプションで当社のサービスを利用する会社の7-8割が契約してくれて、その後の継続率も高い。ので、手前味噌ながら良い有料オプションだと言って良いと思うのだけれども、返信フォーム提供開始以前からINST Messengerを利用してくれていた古参のユーザー企業への導入はあまり進まなかった。
※もちろん返信フォームもUpdateし続けてます

その後、ClickCallBackや日程調整用のBotなども開発して提供してみたが(その追加機能がイケてないという説もあるのだけれども)、検討・導入時点で存在しなかった機能をあとから「こんなんできましたよ」と有料提供してもアップセルはなかなかうまくいかない既存ユーザーが新規機能に興味を示す確率は10%くらいではと分析している。

自分なりに分析すると、導入検討時点で「改善意識が高い人」の役割が殆ど終わってしまい、「こんな機能が追加されたので使ってみましょうよ!」というのは新規導入と同じくらいの大変な労力がかかってしまうのでは、ということと、ある程度現状当社のサービスを導入して得られた結果にご満足をいただいているので、「これ以上はお腹いっぱいです」みたいな感じになってしまいがちなのではと思っている。

じゃあ値上げすれば?みたいな意見もあるとは思うが、僕はSaaSにおける基本料金の値上げは改悪だと思っている。牛丼は原材料が値上がったら仕方ないよね、となるんだけど、クラウドサーバーを使ってパッケージソフトを提供している以上、利用顧客が増えていったら提供価格はステイ or 下げるくらいでいいんじゃないかと。※SMSは原価があるので値下げしなくてすいませんw

まあ顧客をリフレッシュするためとかで基本使用料を上げても解約されないくらい顧客ロイヤリティが高いサービスでないと!みたいな話もあるかもしれませんが。

 

二の矢、三の矢はメッチャ難しい

「それなのであればオプションのアップセルじゃなくても顧客基盤を活かして別サービスで稼げば?」

これもまた仰る通り。ただ、これは言うは易し行うは難し。

SaaSビジネスで継続的成長をするためには、まず1個のSaaSを大ブレイクさせることは必須として、その後の二の矢、三の矢を生き馬の目を射抜くがごとくの精度でリリースしていかないと厳しく、それができる会社はすごく少ない(ので、SaaSだけだと伸び悩む会社が多いのではと思っている)。

事業ピポットを経験した経営者も多いと思うが、”当たるサービス”を作るのはすごく難しい。なので、この業界はM&Aとかも多いわけで。

こういう顧客基盤を活かして、別事業の売上を立てるみたいな思想は、いわゆる近代的なSaaSよりも日本式対面型御用聞き営業を行っている会社の方が得意だったりするわけで、光通信とか大塚商会とかそういう営業が強い会社とか代理店ビジネスをやっているとかであればそこそこできるかもしれないんだけど、セールスフォースに憧れてシステマチックにセリングプロセスを設計していると逆に難しいと分析している。

じゃあ「うちもSaaSベンチャーだけどそういう営業組織作ろう!」となるとSIerとかITコンサルには勝てないわけです。

 

ということでSaaSバブル弾ける説については、ある程度マーケットが成熟してきて、もっと大きなSaaSを提供している会社、投資家たちが僕が書いたようなこととか僕がわからないようなそれ以外の諸々に基づくSaaSの上限に気づいてきたから適性評価になってくるのでは、とこの記事の始まりに戻るような感じで締めくくりたい。

 

つらつらと書いてみたものの、もちろん「お前の勝手な解釈だろ」とか「ウチは違って全然成長路線継続だぜ!」というSaaS会社もあることでしょう。それはそれで、皆さん自分の会社が成長するように潰れないように、みんな頑張っていこうぜ!ということで本日は終了とさせていただきます。

 

それでは。

Kosuke

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